秋の月は日々戯れに

パソコンの画面を睨みつけて無心にキーボードを叩く。

朝に起こったあれやこれ、ついでに家にいる不可思議な存在を頭から追い払うように、仕事に専念する。

そうしていたら唐突に肩を叩かれて、ビックリして振り返ると、そこには呆れたように笑う上司が立っていた。


「何度も呼んだのに気がつかないんだもんな、恐れ入る集中力だよ。その熱心さでこれ、今月中に頼む」


差し出されたのは、クリップ止めされた紙の束。

「すみません」と頭を下げて苦笑しながら、せめてもの非礼のお詫びに、差し出されたものを両手で丁寧に受け取る。

上司の呼び声にさえ気がつけない程の集中力が発揮された訳は、ここでは何となく口にしづらいから、と言うより言っても信じてもらえるとはとても思えなかったから、ひたすらに苦笑して「次からは気をつけます」とその場をやり過ごす。


「別に急いでないから、後回しでいいぞ。今月中に終わらせてくれればいいからな。あとお前、あんまり仕事が早いと、サボりたがりな奴らに目をつけられて、余計な仕事まで押し付けられるから気をつけろ」


立ち去り際にとんでもないことを言い放って、ぽんぽんと肩を叩く上司。
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