秋の月は日々戯れに
またリスみたいに膨れてプリプリ怒り始めた彼女に、彼は深々とため息をつくと、天井に向けていた視線を壁の方に向けて僅かに体を丸める。
「それじゃあ俺そろそろ寝ますので、静かにしてください」
まだむっつりと膨れて恨み言を呟いていた彼女だったが、やがて本気で彼が寝る体勢に入ったことを知ると、そっとベッドから抜け出した。
背中に感じていた冷たさが唐突になくなって、彼は首を捻るようにして振り返る。
「どこに行くんですか」
遠ざかろうとしていた白い背中に声をかけると、彼女は足を止めて振り返った。
「お風呂場です」
「……こんな時間に風呂ですか?」
ご近所トラブルになりかねないのでやめて欲しいと思いながら彼が上体を起こすと、彼女は笑って首を振る。
「あなたの睡眠を邪魔しないように、朝までお風呂場で待機するんです」
なぜに風呂場?と思ったのが顔に出ていたのか、彼女が続けて口を開く。
「この部屋にいると、万が一あなたが夜中に目を覚ましたとき、ビックリしすぎて心臓が止まってしまうかもしれません。トイレも然りです。だから、絶対に夜中に足を運ぶことのないお風呂場に」