秋の月は日々戯れに
しばらくぼんやりと彼女が消えた風呂場の方を見つめていた彼は、やがて再びベッドに体を横たえる。
ぼんやりと天井を見つめていると、風呂場で膝を抱える彼女の姿が脳裏にちらついた。
「……別に、俺には関係ない」
幽霊である彼女が、どこで何をしていようと、例え夜に風呂場で一人膝を抱えて朝を待ちかねていようとも、自分には全くもって関係ない。
彼女が自称しているだけで、本当は、妻でもなんでもないのだから――。
そう頭では分かっていても、途端に眠れなくなってしまったのはなぜなのか。
頭から消えない膝を抱える彼女の姿を、振り払うように何度も何度も寝返りを打つ。
そうしているうちにいつの間にか眠ってしまったようで、気がつくと既に朝を迎えていた。
「おはようございます!よく眠れましたか?」
そう言って彼女は、当たり前のようにベッドの端に膝をつく。
「フレンチなものでよければ、受け付けますよ。お目覚めの……」
「朝っぱらからふざけたこと言わないでください」
また今日も、変わらない一日が始まる。