秋の月は日々戯れに
3
彼と彼女と後輩の話1
出社早々後輩に捕まった彼は、ちょっとちょっとと喫煙所の前にある自動販売機のところまで引っ張られていった。
「先輩、その傷どうしたんっすか?」
「あーまあ、これはその……昨日、ちょっとな」
頬に注がれる視線から逃げるようにして顔を逸らすと、後輩はそれ以上追求してくることもなく「そうっすか」と自動販売機に向き直った。
「先輩、コーヒーでいいっすか?」
「え?ああ、うん」
彼の返事を待たずして既にブラックと微糖を一本ずつ買った後輩は「どっちにしますか?」と両方差し出す。
彼が迷わずブラックの方を手に取ると、後輩は残った微糖のプルタブを開けた。
「なんか、急ぎの用事か?」
仕事でミスでも犯したか、それとも一人では手に負えない仕事でも任されたか――朝一で誰もいない場所に呼び出さなければいけない用事を頭の中で色々と思い浮かべながら問いかける。
後輩は、しばらくぼんやりとプルタブの開いた缶を眺めてから口を開いた。
「……オレ、春から異動になるらしいっす」
そう言って彼の方を向いた顔には、なんだか複雑な表情が浮かんでいた。
迷子になって途方にくれて、どうしたらいいか分からない、そんな子供みたいな表情。