秋の月は日々戯れに
「それも、社内異動じゃないんっすよ」
何か取り返しのつかないミスでも犯して飛ばされるのかと彼が身構えると、後輩は複雑な表情を歪めるようにして口元に無理やり笑みを作った。
「異動先は、本社だそうっす。オレ、元々内定は本社で貰ってたから。でも向こうの都合で、ひとまずこっちで研修がてら仕事を覚えてもらってとか何とか言われて一年経つから、このままこっちにいるもんだと思ってたのに……。迎え入れる体制が整ったから、春から正式に本社勤務にって」
「それは……」
おめでとうと言いかけて、思わず口を噤んだ。
ミスをして辺境の地に飛ばされるわけでもない、むしろ出世コースと呼んでもいい本社勤務の辞令に、けれど後輩は複雑そうな表情をするばかりでちっとも嬉しそうではない。
「オレ、どうしたら……」
グッと缶を握りしめて呟いた後輩は、顔を上げて救いを求めるように彼を見つめた。
けれどそんな目で見つめられても、彼にはどうすることもできない。
どうすることもできないから何も言わないでいたら、後輩はまた口の空いた缶に視線を落とした。
「なんか、すみません。別に悩むようなことじゃないっすよね」