秋の月は日々戯れに
ヘビースモーカーなその人が歩いたあとには、いつも煙草の匂いがまるで道標のように残る。
もう慣れてしまったので彼としては特に気にもならないが、新人の頃は鼻に残るその匂いがかなり苦手だった。
慣れって凄いな――などと思いながら、再びパソコンに向き直ると、またしても肩を叩かれる。
叩かれるというよりは、指先でつつかれている様な感じだったけれど。
振り返れば、今度は同僚の女性が立っていた。
「これ、さっき受け付けで預かってきた」
手渡されたのは紙袋で、中を覗いてみると、お弁当箱にしか見えないものが入っていた。
「俺に……?」
覚えがなくて首を傾げれば、同僚は頷いてからニヤッと笑う。
「受付の子が言うには、すっごく綺麗な女の人が届けに来たらしいよ。それから、いつも夫がお世話になっておりますって言ってたって」
それを聞いて、覚えが一つだけあることを思い出した。
「……その人、白い服着てなかったか?袖のとこがフリルっぽくなってるワンピース」
「さあ?そこまでは知らないけど、全体的に白っぽかったとは言ってたかな。そんなことより、いつの間に結婚したの?」