秋の月は日々戯れに

いつにしようかと考えていると、ふといつになく本気で怒っていた彼女の顔が頭に浮かんだ。

それは、同僚と飲んで遅く帰った日、何も言わない青白い顔と冷め切ったオムライス、それから風呂場に消えていく白い背中――。


「……別に、あの人はただの幽霊だから関係ない」


結婚なんてした覚えはないから、断じて妻ではない。

そう言い聞かせてみても、なぜだか彼女の怒った顔が頭から消えない。


「変にまた怒らせて、祟られても困るか……」


関係ない、関係ないと思いながらも、つい彼女のことを考えてしまうのがどうにも釈然としないけれど、それで彼女という幽霊が大人しくしていてくれるのであれば、それに越したことはない。

きっといつかは、彼女もこの夫婦ごっこに飽きていなくなるはず。


「それまでの辛抱」


自分の気持ちを奮い立たせるように呟いて、彼はようやく缶コーヒーのプルタブに指をかける。

既に口に煙草を咥えて曲がってきた上司が、そんな彼を見つけて嬉しそうに笑みを浮かべた。

なんだかとっても嫌な予感がして逃げたくなったけれど、思いっきり目が合った以上無視するわけにもいかない。

何しろ相手は上司だ。

そして彼は、物凄く嫌な予感を抱えたまま、満面の笑みで近づいてきた上司に挨拶をする。






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