秋の月は日々戯れに
「全くあなたという人は……!」とブツブツ呟く声を聞きながら、彼はカップに残ったコーヒーを飲み干して腰を浮かせた。
プリプリ怒りながらも、自分の為にせっせと料理を温めなおす白い背中をしばらくぼんやりと見つめて、彼は無意識に額へと手を伸ばす。
心地いい冷たさと、優しい声音を思い出すと、疲れきった心がまた浸りそうになって、彼はふるふると首を振って我に返ると、白い背中から視線を外して慌てて風呂場へと向かった。
「あっ、少し熱めに沸かしてありますから、入るときは気をつけてくださいね!」
思い出したように風呂場へと向けられた彼女の声は、怒らせた張本人である彼が呆れてしまうほどに、もういつも通りに戻っていた。
「幽霊になると、怒りが持続しないようにできてんのかな……」
でもそれだと、悪霊や怨霊の類の説明がつかないか――などと考えながら服を脱いで浴室のドアを開けた彼は、体を軽くシャワーで流してから早速お湯の貼られた浴槽へと身を沈める。
確かに、温度はいつも入るよりだいぶ熱めだったけれど、それが今の疲れきった体にはちょうどいい。