秋の月は日々戯れに
一人きりで暮らしていた頃は、疲れて帰ってきた日は夕飯はコンビニ、風呂はシャワーで軽く済ませ、朝まで死んだように眠るのが常だったのに。
今では、帰れば既に部屋は温かく、夕飯も風呂も当たり前のように準備してある。
それらをもたらしてくれるのが全て幽霊だというのがなんだか納得いかないが、実際彼女のおかげで彼の生活は変わった。
誰かが家で自分の帰りを待っていて、せっせと世話を焼いてくれるというのは、案外悪くない。
それが“幽霊でなければ”の話だが――。
狭い浴槽で限界まで体を縮めて何とか肩まで浸かると、浴槽の縁に頭を預けて天井を見上げる。
落ちてきた水滴が水面で弾けて音を響かせ、小さく波紋が広がった。
「なんで、幽霊なんだろうな……」
それは、彼女が幽霊であることを悔やんでいるのか、それとも、幽霊に好かれてしまったことを嘆いているのか、どちらの意味だったのかは、呟いた彼自身もよく分かっていない。
ただ一つだけ分かっていることは、彼女がこの夫婦ごっこに飽きた時が、すなわち別れの時だということだけ――。
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