秋の月は日々戯れに
――全体的に白っぽいと言うことは、やはり犯人は奴しかいない。
興味津々な顔の同僚に聞こえないように、彼は小さく小さくため息をつく。
「結婚なんてしてないから。その人は……」
その人は、夜の公園でとり憑いてきた幽霊なのだが、それを言って信じてもらえるとは思えない。
頭がおかしくなったと思われて、哀れまれるだけだ。
「その人は……遠縁っていうか、知り合いの……いや、えっと……顔見知りの人?」
「……はい?」
言葉を選びすぎて余計わけの分からない人物になってしまったが、事実を伝えられない以上、何とかこの曖昧な設定で誤魔化し通すしかない。
それでもやっぱり無理があるのは自分でも重々分かっているから、早めに話を切り上げにかかる。
「とにかく、結婚はしてない。その受付の人にも、そう伝えておいてくれ」
どうにも納得のいかない顔をしている同僚ではあったが、ひとまず「分かった」と頷いた。
ひどく渋々ではあったけれど。
――それにしても、あの人は一体どうやって弁当を準備したのか。確かに今朝は、この体だと味噌汁も作れないと言っていたはずなのに。