秋の月は日々戯れに
「お湯加減、いかがでした?」
「悪くなかったです」
幽霊が思わず幽霊みたいだと言ってしまうほど憔悴しきった顔から一転、すっかり血色の良さを取り戻した彼は、濡れた髪を無造作にタオルで拭きながら部屋の中を進む。
「それはなにより。さあ、座ってください。今日の夕飯は、肉じゃがですよ!」
満足げに頷いた彼女が指差す先、テーブルの上には肉じゃががたっぷり盛られた大皿と、ホカホカと湯気を立てる白いご飯に味噌汁が用意してあった。
「……ちょっと作りすぎじゃないですか?流石にこんなに食べられませんよ」
「いっぱい食べれば、その分元気になりますよ。それに、少ないよりは多い方がいいかと思いまして」
それはそうだが、限度というものがある。
「第一このバカでかい皿、どこから出したんですか。買った覚えないですけど」
「箱に入ったまま、食器棚の奥の方にしまってありました。ダメですよ、せっかくあるんだから使わないと。ロゴを見る限り、これは割りといいブランドのお皿です」
箱に入ったままのいいブランドの皿――そう言えば、そんなようなものを友人の結婚式で貰ったような気がする。