秋の月は日々戯れに
怒る彼女を無視してまた黙々と箸を進めると、その怒りが幾分落ち着いたところを見計らってまた口を開く。
「あなたの誤魔化し方は古典的すぎるんですよ。あんなの、いつか絶対バレます。だから俺は、あいつが来る度に冷や冷やしてるっていうのに、あなたはけろっとして緊張感もない」
何も口にすることができない幽霊である彼女は、同僚も交えての夕飯の時は決まって、食べるフリをして箸を動かしながら、巧妙に彼の皿へと自分の皿の中身を移し替えていた。
「堂々としていれば、意外に気づかれないものですよ。それに、いつ気づかれるともしれないあのスリルも、中々面白いですしね」
「楽しまないでください」
ムスっと膨れた彼を見て、彼女は可笑しそうに笑う。
「何事も、楽しまないと損ですよ。人生は楽しんだ者勝ちだと、どこかの誰かが言っていました」
「どこの誰ですか」
「さて?よく覚えていません」と笑う彼女に、彼は呆れてため息をつく。
そんな彼を、テーブルに頬杖をついて眺めていた彼女は、青白い指先でそっと空になった茶碗を指差した。