秋の月は日々戯れに


「一番初めに作る味噌汁は、あなたがお好きな具を入れようと決めていたんです。何がいいですか?」


ワクワクした顔で答えを待つ彼女。

その姿はなんだか、散歩の時間を待ちわびる犬に似ていた。

もしも尻尾があったなら、ちぎれんばかりに振っているに違いない。


「俺、具だくさんの味噌汁はあんまり好きじゃないんです。できれば、ネギだけとか豆腐だけとかのシンプルなものの方が」


それでは栄養に偏りが!と騒ぎ出すかと思ったが、彼女は意外にもあっさり「分かりました」と頷いた。


「ちょうど、豆腐が冷蔵庫にあるんです。最初の味噌汁は、豆腐で決まりですね!」


嬉しそうな彼女の声を聞きながら食事を再開した彼は、その瞬間すっかり忘れていたあることを思い出した。


「あっ、そうだ……」


箸で摘んだばかりの人参が、気を抜いた瞬間にツルッと滑って皿の中へと戻っていく。


「取り箸かおたま、持ってきましょうか?」


言いながら腰を浮かしかけた彼女に返事をするもの忘れて、彼は自分の話を続ける。
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