秋の月は日々戯れに
結局その時は薬を飲むより先に酷い吐き気に襲われて、心配した先輩が申し訳なさそうに迎えに来てくれるまでトイレから離れられない状態だった為、その時からずっと引き出しにしまいっぱなしになっていた。
「……もしかして、俺がいない間に部屋の中あさってます?」
「なんてこと言うんですか!わたしは泥棒ではありません」
それならば、彼でさえ目にするまでその存在を忘れていたような薬を、どうして彼女が知っているのか。
憤慨する彼女をまじまじと見つめて考えていたら、途端に彼女の視線はバツが悪そうに下を向いた。
「……練習、していたら、その……引き出しを、ひっくり返して……しまいまして」
そこまで聞けば、何となく読めた。
なんの練習をしていたかはもちろん聞かない。
「なるほど。引き出しの三段目に入れておいたはずの印鑑が、いつの間にか二段目に移動していたのはそういうわけですか」
「い、印鑑は三段目でしたか……。元通りにしたつもりだったんですけど……」