秋の月は日々戯れに
「すみません」と項垂れる彼女に、彼は少し冷めた肉じゃがを頬張りながら「嘘です」と。
「元々、印鑑は二段目の引き出しが定位置です」
顔を上げてしばらくポカンとしていた彼女は、やがて自分がからかわれた事に気がついてぷくっと膨れた。
「人が悪いです。冗談だったなら、もっと冗談っぽい顔をして言ってください!そんなほとんど真顔で言われたら、冗談だなんて思えません」
「スリルがあると面白いって、さっき言ってたじゃないですか。人生楽しむんでしょ?」
「あなたの場合は、スリルがどうこう以前に常にその顔じゃないですか。怒っているか無表情か以外のレパートリーを見たことがありません!」
「表情筋が死んじゃってるんですかね」
「またあなたは……!」
それからはいつぞやと同じ「幽霊の私に向かって――――!」だの「そんな繊細な心――――」だのと言い合う二人。
懲りない諍いを繰り返しながらも、彼はちょこちょこと箸で肉じゃがを摘んでは口に運び、彼女の怒りが収まる頃には、大皿いっぱいの肉じゃがは、ちょうど小鉢に一杯程度まで減っていた。