秋の月は日々戯れに
「……もう食べられません」
呟いてぐでっと後ろに倒れ込んだ彼を、どこか嬉しそうに「お行儀が悪いですよ」とたしなめながら、彼女はキッチンに向かう。
「コーヒーだと寝られなくなるかもしれませんから、お茶を温めますね」
彼女の言葉に体を起こすと、青白い手が冷蔵庫から緑色の液体が入った細長い容器を取り出すのが見えた。
「……そんなもの、どこから出したんですか」
またしても自分では買った覚えのないその容器を訝しげに見つめていると、彼女は呆れたように一瞬彼を見やってから、マグカップへと中身を注ぎ入れた。
「この間買い物に行ったとき、あなたがスーパーの福引きで当てたやつじゃないですか。水出しの緑茶と麦茶と烏龍茶が三パックずつに、この水出し用の容器がついているお茶セット」
そこまで説明されれば、彼にも記憶に引っかかるものがあった。
「そう言えば当てましたね、そんなの」
一等はペアでの海外旅行券で、当然のように彼女はそれを欲しがったが、そうそう狙ったものが当たるわけはない。