秋の月は日々戯れに


「あっ、そうだ。あと、お弁当のついでにこれ、今週末までによろしく」


お弁当の時とは反対に、押し付けるように渡されたファイル。


「今週末って……明後日じゃないか」

「仕事早いから平気でしょ。じゃあ、よろしく!」


ひらっと手を振った同僚は、先ほどの興味津々さも、納得のいかない渋々さも全て捨て去って、逃げるようにして離れていく。

その背中に、ついさっき見送ったばかりの上司の背中が重なって、言われたばかりのセリフが頭の中に蘇った。

ありがたい助言を実行する前に、もう手遅れとばかりに、サボりたがりらしい同僚から余計な仕事を押し付けられてしまった。

でも今はそれよりなにより、彼女の作ったお弁当の方が気になる。

紙袋とファイルを交互に見てから、紙袋一点に視線を集中させる。

ちょっとだけ中身を確認してみようかと紙袋に手を入れたところで、名前を呼ばれて顔を上げた。

ちょいちょいと笑顔で手招くのは先輩で、なんだかとっても嫌な予感がしたけれど、行かないわけにはいかないので、仕方なく紙袋から手を引く。

ファイルと一緒に紙袋をデスクに置いて立ち上がると、遠くの方から憐れむような視線を送ってくる上司と目が合った。



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