秋の月は日々戯れに
そんな予言めいた彼女のセリフが、なんだか引っかかって彼は顔を上げる。
見つめ合う二人の間にしばらく沈黙が流れて、やがて彼女の小さな笑い声がそれを破った。
「そんなに見つめられると照れますね。気遣いの出来る妻に惚れ直しましたか?」
先程まで微かに漂っていた真面目な空気が一瞬で消滅して、彼女はいつも通りに一人嬉しそうに照れ笑う。
「いえ、惚れ直す以前に、惚れてません」
だから彼も、いつも通りに淡々と言葉を返した。
当然次の瞬間彼女の笑顔は一変して、代わりに頬袋いっぱいにどんぐりを詰め込んだリスがそこに現れる。
「もしかして、前世はリスだったんじゃないですか?欲張って頬袋にどんぐりを詰め込みすぎたがゆえの窒息死」
「そんなわけないでしょ!!例えリスだったとしても、そんな間抜けな死に方はしません!」
「そんな間抜けって、今のはリスに失礼ですよ」
「失礼なのはあなたの方です!」
ヒートアップした彼女を横目に、彼はゆったりと温かいお茶を飲んだ。