秋の月は日々戯れに
彼と彼女と後輩の話2
「先輩が飲みに誘ってくれるなんて滅多にないことじゃないっすか。だからオレ、同期の奴らに自慢したら、もれなく全員に羨ましがられました!」
自分でも滅多にないことだとは思っているが、わざわざそれを同期に自慢する意味も、また同期の人達が羨ましがる意味も、彼にはちっとも分からない。
けれど、そんな彼の困惑など全く気にした様子もなく、後輩は嬉しそうに語り続ける。
その声を聞くともなしに聞きながら、彼は目的の店を目指して歩いていた。
朝方から昼間にかけてちらついていた雪は夕方を前にすっかり止み、今では人も車も通らない道の端に、その名残があるばかりとなっている。
それでも気温は一日を通してさほど変わらず、吐く息が白く濁って寒々しい。
道行く人は皆、首を縮こめるようにして先を急いでいた。
「たまに同期で集まって同期会するんですけど、先輩のことが話題にのぼらない日はないっすからね!オレ、同期の中じゃ唯一先輩と同じ部署じゃないっすか。だから、もう皆羨ましがっちゃって」
なぜ羨ましがられるのか全く理解できないが、いい加減むず痒くなってきた彼は、何か自分には関係なさそうな別の話題を探す。