秋の月は日々戯れに
仕事関連だとどうしてもそっちに繋がってしまう予感がするので、そうなってくるとプライベートな話題を振るしかない。
けれど、パッと思いつくような話が何もなかった。
新たな話題探しに頭を悩ませる彼の様子に気がつくこともなく、後輩は未だ嬉しそうに楽しそうに語り続けている。
中には、それは一体誰のことだと問いただしたくなるような内容まであって、どこかで話に尾ひれが付けられたことは間違いなかった。
その調子で結局新しい話題を提供できずに、自分のこととはとても思えないような話を延々後輩から聞かされるという苦行を味わった彼は、目的の店に辿り着く頃にはすっかり疲れ果てて、幾分やつれてもいた。
「いらっしゃいませ。どうぞ、一番奥のお席が空いております」
店に入ると、五つあるカウンター席は既にスーツ姿のお客で埋まっていて、その対面にあるキッチンでは、板前の格好をした店主の男性が、向かいのお客と和やかに談笑しながら料理を作っている。
入ってきた彼と後輩に気がついたのは女性の店員で、手で示されるままに、二人は一番奥の個室へと向かった。