秋の月は日々戯れに


「先輩、結婚してたんすか?」


唐突な後輩のセリフに、飲んでいた缶コーヒーをぶふっと吹き出す。

誰もいない自動販売機前、隣の喫煙所にも人がいなかった為、丁度いいとばかりに食後のコーヒーを立ち飲みしていたところに、突然現れて唐突なセリフを放った後輩は、同じようにホットの缶コーヒーを買って隣に並ぶ。


「それ、誰に聞いた?」


ティッシュを持ち合わせていなかったので、仕方なくハンカチで吹き出したコーヒーを拭きながら問いかけると、缶をグイっと一度傾けてから後輩が答える。


「受付の人からっす。今日ちょっと遅刻しちゃって、来たとき丁度出て行く女の人とすれ違ったんすよ。綺麗な人だったんで、誰かなと思って聞いたら、先輩の奥さんだって言うから」


そう言えばこの後輩は、確かに今日遅刻してやって来て上司に小突かれていた。

その時に彼女と鉢合わせするだなんて、タイミングが悪いにも程がある。


「でも先輩、指輪してないっすよね。あっ、仕事中は邪魔になるからっていうアレっすか。先輩、仕事早くて出来る男っすもんね!皆言ってますよ。先輩に任せれば、自分でやるより早く仕事が片付くって。流石っすね!」
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