秋の月は日々戯れに
彼の話を聞きながら、彼女は無言でエアコンの設定温度を上げる。
「そんなことより、なんて格好してるんですか。もしそいつが目を覚ましたら、中が丸見えですよ」
彼の呆れたようなセリフに、途端に彼女の表情がご機嫌に変わった。
「それは、嫉妬ですか!お前は俺だけのものだ、みたいな感じの意味ですか!」
「……どこをどうしたら、そんなとんでもない発想に繋がるんですか」
心底呆れ顔でため息をつく彼を見上げ、彼女は嬉しそうに笑う。
「いいんですよ、そんなに照れなくても。二人っきりではありませんが、今後輩さんは眠っています。遠慮せず、妻に愛を伝えてください」
なんだか返事をするのも、ため息を付くのさえ億劫になって、彼は無言で彼女から視線を逸らす。
当然、ワクワクした様子で彼からの愛の言葉を待っていた彼女はムスっと膨れた。
「ここに来て黙秘権を行使ですか。いいですよ。そんなことしたって、あの時同僚さんの前では一切否定しなかったという事実は揺らぎませんからね!」
「……いつまで引っ張る気だよ」
「あなたが観念するまでです」