秋の月は日々戯れに

どこで誰がそんなとんでもないことを言いふらしているのか激しく気になるところだが、今はこの口の軽そうな後輩が、どこかでペラペラと余計なことを話し出す前に、誤解を解くことを優先させる。


「先輩が既婚者だったなんて、正直ビックリっす。何となく、独身男性的な雰囲気を感じてたんで。でも言われてみたら先輩って、飲み会とかあんまり参加しないっすもんね」


けれどとにかくお喋りなこの後輩は、彼が言葉を発するより先に喋り出すので、話し出すタイミングが中々掴めない。


「そりゃああんな奥さんがいたら、家に飛んで帰りたくもなりますよね。横顔チラッとしか見えなかったっすけど、かなり綺麗な人で、なんつうか……透明感がある?みたいな」


彼としては、飛んで帰った覚えは一度たりとてないし、彼女の場合は透明感ではなく、実際に約三分の一は透明なのだ。

足元が完全にスケスケのあの状態でやって来て、なぜ誰も不審に思わないのか――という彼の疑問も然ることながら、本当にこの後輩はよく喋る。

全く口を挟む隙が見当たらない。


「今度ゆっくり話聞かせてください!オレ実は付き合ってる人がいて、そろそろ真面目に将来のこととか考えたいと思ってたところだったんす。既婚者の先輩として、アドバイスお願いしゃっす!」
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