秋の月は日々戯れに


「後輩さんは動かすのが大変なようなので今日はベッドを貸してあげるということで、あなたはこれを使えば問題ないのでは?」


確かに問題はない。

シングルベッドに男二人で寝るよりは、少しくらい埃っぽい布団の方がまだマシだ。

いそいそと布団を取り出していた彼は、そこでハッとして顔を上げる。

突然自分を見上げる彼に、目が合った彼女はまたコテっと首を傾げた。


「あなたは、どうするんですか……?」


彼の質問に、彼女は当たり前のような顔で「お風呂場です」と答えた。


「あそこは、夜のわたしの定位置と化しています。最早、わたしの自室であると言っても過言ではありませんね」


風呂場を勝手に自室にしないでもらいたいが、今はそこに突っ込んでいる場合ではない。


「この布団は、あなたが使ってください」


「どうしてですか?」と心底不思議そうに、彼女は問い返す。


「わたしはこの通り幽霊な身です。どうせ眠ることはないので、お風呂場で充分ですよ?あそこはわたしの」

「あなたの自室じゃありません。万が一こいつが夜中に目を覚まして、トイレと間違えて風呂場に入ったらどうするんですか。夜中の風呂場に白い服の女がいるって、ホラー以外の何ものでもありません」
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