秋の月は日々戯れに
きっと今目を覚ましたら“心臓が止まるかと思いました!”と怒られるのだろうが、今のところその気配はないので、まじまじと彼の顔を見つめる。
ベッドの上では、後輩がまた愛おしそうに誰かの名前を呟いた。
「……あなたも、いつかは呼んでくれるでしょうか。わたしの名前を」
またしても、彼が愛おしそうに自分の名前を呼ぶ姿を想像して、彼女は一人恥ずかしそうに、でも嬉しそうに頬を緩める。
「その時はとびっきり大事に、こちらの後輩さんに負けないぐらい愛おしげに、呼んでくださいね。…………あなたに、気に入ってもらえるように考えた名前ですから」
呟く声は誰にも届くことなく、ただ暗い部屋を漂って消えていく。
二人分の寝息と、時折後輩が誰かの名前を呼ぶ声だけが微かに響く部屋の中、彼女はそっと身をかがめると、彼の頬に触れるだけの口づけを落とした。
一瞬感じた冷たさに、目は覚まさないまでも、彼が僅かに身じろぐ。
「ついに、旦那様の寝込みを襲ってしまいました」
そう言って楽しげにふふっと笑った彼女は、いそいそと彼の隣に戻って横になった。