秋の月は日々戯れに
勢いよく下げた頭をまた勢いよく上げた後輩は、その勢いのままに缶コーヒーを飲み干して、晴れやかな笑顔と共に去っていく。
怒涛のようなお喋りに成すすべもなく、結局訂正するどころか一言も言葉を発せぬままに、彼は呆然とその背中を見送った。
少しずつ温もりがなくなっていく缶を手の中に、ハッとして腕時計に視線を落とす。
手作り弁当など誰にも見られるわけにはいかないので、人のいない場所を探し回った分だけ、いつもより休憩時間が短く感じる。
結局社内でそんな場所は見つけられず、寒空の下で開いたお弁当は、開けてビックリ黄色一色だった。
それもそのはず、自炊なんて滅多にしないから、おかずは冷蔵庫に唯一入っていたであろう玉子焼きのみ。
形のかなり歪なそれは、勇気を持って口に入れると、何とも微妙な味がした。
特別不味いわけでもないが、かと言って美味しくもない、微妙な味。
そんなお弁当を食べ終えての、食後のコーヒータイム。
時間が差し迫っているので、ぬるまった缶コーヒーをグイっと一息に飲み干して、販売機の横にあるゴミ箱に捨てると、少し早足に歩き出す。