秋の月は日々戯れに

彼と彼女と後輩の話3



「先輩、今日のお昼もお弁当っすよね。朝、奥さんが渡してましたもんね。どこで食べるんすか?オレもご一緒したいっす!」


朝からずっとこの調子で後輩にまとわりつかれ、寝不足気味の彼は正直辟易していた。

その寝不足の原因は、夜中に寝ぼけた後輩に足を踏まれて飛び起きたひと騒動の末、状況が全く理解できていない後輩に、ここに至るまでの経緯を説明していたから。

それを聞いた後輩の中でまたしても彼の株が上がり、そのせいでこうしてまとわりつかれる事になったのは全くの計算外だった。


「どこって……」


人目につかないところ、などと正直に言えば、その理由を問われることは間違いない。

理由なんて、既婚者であるという噂をこれ以上広めないためでしかないのだけれど、それを後輩に説明するには、彼女の正体から明かさなければならない。

彼の妻を名乗る女性は本当はただの幽霊で、自分はとり憑かれているだけなのだと説明しようものなら、絶対に頭のおかしいやつだと思われる。

たとえそれが真実でも、信じるかどうかは聞いた本人次第でしかない。

実際に彼女を見て、会話までしている後輩ならば、彼の話を信じてくれる望みは限りなく薄い。
< 171 / 399 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop