秋の月は日々戯れに
その姿はまるで、飼い主を前にして、尻尾をちぎれんばかりに振って喜びを表現する犬のよう。
実際、何かと彼のあとをついてまわる後輩の姿を見て、先輩や上司などは「忠犬って感じだな」と笑う始末。
後輩が犬呼ばわりされることを嫌がってくれたらまだしも「先輩の忠犬だなんて……光栄すぎっす!」などと喜んでいるのだから、もうどうしようもない。
盛大にため息の一つでもついて、もういい加減一人にしてくれと言いたいところだが、別に悪いことをしているわけでもない後輩を、自分の都合で邪険にするのは、彼としても気が引ける。
仕方がないので、もう好きにしてくれという意味を込めて力なく頷いたら、後輩の顔がまた一段と華やいだ。
きっと彼が本当に犬だったなら、振りすぎて本当に尻尾がちぎれていたかもしれない。
「先輩、オレあったかい飲み物買ってきます!やっぱり、あったほうがいいっすよね。何がいいっすか?」
「……じゃあ、お茶で」
財布から千円札を出して渡し「お釣りはこの間買ってもらったコーヒー代ってことで」と返さなくてもいい事を告げると、後輩は「先輩、やっぱオレ一生ついていきます!」と残して駆け出した。