秋の月は日々戯れに
その背中に、ブンブン左右に揺れる犬の尻尾が見えるよう――。
離れていく背中を見送りながら小さくため息を零すと、彼は手持ち無沙汰にその場に立ち尽くした。
もう後輩の背中は見えないが、向かっていった先から笑い声と共に「頑張れよ!忠犬」という声が聞こえてくる。
明らかに上司か先輩であろうその声が自分の方に近づいてくるのを感じて、彼は慌てて逃げるようにその場を離れた。
ここでかちあったら、絶対にからかわれる。
朝からそれを何度もかわしてきた彼は、寝不足も相まって既に疲労困憊、その為考える間もなく体が逃げる方を選ぶ。
「あいつ、最近変わったよな。昔は一人で黙々と仕事して、終われば速攻帰ってたようなやつが」
「ほんとですよ。聞いた話だと、同僚と飲みに行ったりもしてるらしいですよ」
「付き合いも良くなってきたってことか。何があったか知らんが、いいことだな」
上司と先輩の間で交わされるそんな会話は、そそくさとその場を離れた彼には当然聞こえていない。
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