秋の月は日々戯れに
言ってしまえば、どこが好きとか惚れているとか以前に、彼女は生きていないし、付き合った覚えも、ましてや結婚した覚えだってない。
全ては、彼女が勝手に言っているだけで、彼の中ではとり憑かれているという認識に未だ変わりはない。
だから、答えようがなかった。
「やっぱり、あの透明感溢れる美人なところっすか?いやでも、流石先輩の奥さんって感じで、見た目だけじゃないっすよね。気遣い上手で優しくて」
確かに、綺麗だとは彼も思う。
けれど彼女の場合、後輩が言うように透明感があるのではなく、実際に足元は透明なのだ。
気遣い上手で優しく見えるのだって、後輩の前だからと猫をかぶった部分もあるだろう。
彼も優しさや気遣いを感じることはごくたまにあるが、ほとんどの場合、ヤキモチ焼きで子供っぽい。
最初の頃なんて、やかんにさえ嫉妬していたくらいだ。
もし彼女が幽霊でなかったなら、そんなところが可愛いと、好きだと思えたのだろうか――とふと考えて、途中で不毛過ぎると思い直して思考を中断する。