秋の月は日々戯れに
「強いて言うなら、まあ……ギャップ、かな」
答えを待っている後輩に、何か言わなければと思ったら、口をついてそんな言葉が出てきた。
別にそこに惚れているわけではないけれど、どうせ何か答えなければいけないなら、無難なところが一番だろう。
「なるほど、ギャップっすか。やっぱそういうの、グッときますよね!」
本当は、彼と彼女の関係は不自然以外のなにものでもなくて、それが自然になることは、彼が生きていて、彼女が死んでいる限り絶対にありえないのだけれど。
その不自然さを知らない後輩は、ただ彼の言葉に納得したように頷く。
どんなところにギャップを感じたのかなんて、更に突っ込まれなかったことが彼にとっては幸いだった。
「オレも、最初に彼女を好きだなって思ったのが、正しくギャップを感じた時なんすよ。オレが勝手に抱いてた印象と違う一面が見えた瞬間、やられましたね」
言い終わると同時にパリパリと海苔の音を立てながら、後輩はおにぎり食べる。