秋の月は日々戯れに
そしてきっちり飲み込み終わるとまた口を開き、ひとしきり自分の彼女について語ったら、またおにぎりを。
しばらくそれを繰り返しているうちに、ふと視線がどこか遠くに固定され、声のトーンが変わった。
「……時々、不安になるんすよ。彼女への気持ちが大きくなればなるほど、こんなに好きなのは、もしかしてオレの方だけなんじゃないかって」
さっきまで幸せそうに自分の彼女の事を語っていたのが嘘のように、一気に後輩を取り巻く空気が変わる。
温かくほわほわしたものから、冷たく寒々しいものへと。
「春からは異動だから、本当は離れたくなんかないけど離れなくちゃいけないから。だから、ますます不安なんす。でも、オレが不安だってだけで、今の生活全部捨てて付いてきてほしいなんて、そんなの……」
続く言葉は、声にならずに消えていく。
それでも言いたかったことは何となく分かる、分かるけれど、こんな時にかけてあげるべき言葉が、彼にはなにも思いつかなかった。
箸で摘んでいた玉子焼きを一旦弁当箱に戻した彼は、それでも何か言葉を探して顔を上げる。