秋の月は日々戯れに

すると、こちらに向かって駆けてくる姿があることに気がついた。

後輩はとっくに気がついていたらしく、おにぎりを持っていない方の手を高く上げて、左右に振っている。

相手もそれに応えるようにして、走りながら手を振り返した。

顔が判別できる距離まで近づいてようやく、彼にもそれが誰だか分かった。


「お疲れ様です!奥様、お元気にしてらっしゃいますか?」


当然のように挨拶にそのセリフを混ぜてくる受付嬢は、今日も眩しく笑う。

会社の顔であり、男性社員の密かなる癒しと称されているその笑顔に苦笑を返して、彼はとりあえず頷いておく。

返事をもらって満足したらしい受付嬢は、続いて彼の隣に座る後輩へと視線を移した。


「お疲れ様。外で食べているなんて珍しいね」

「おう、お疲れ。先輩のお昼にお供させてもらってるんだ」

「お供って、なんだか犬みたい」


そう言って笑う受付嬢に、後輩は「ただの犬じゃないぞ、忠犬だ!」となぜだか得意げに胸を張る。

それを聞いてまた、受付嬢は可笑しそうに笑った。
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