秋の月は日々戯れに
怖い怖いと騒ぐ同僚を、根拠のない大丈夫で慰める彼女の声を聞きながら、彼は風呂場で一人、ブツブツと恨み言を漏らす。
ラフなTシャツとジャージに着替え、脱いだワイシャツとインナーは洗濯かごの中へ、そうして部屋に戻ると、なにも言っていないのに怒りの空気を感じ取ったらしい同僚の肩がピクっと揺れ、心なしか姿勢が正された。
「ではまず、座ってコーヒーを飲みましょう。温かいものは、温かいうちにいただくのが一番です」
なぜ彼女が主導権を握っているのかはさておいて、彼は大人しくテーブルの前に腰を下ろして、指し示されたコーヒーを啜る。
同僚も同じように、彼女が淹れたおかわりのコーヒーに息を吹きかけてからそっと一口。
彼の方が少しだけ早くカップをテーブルに戻して、そこから数秒置いて、同僚もカップを置いた。
彼は険しい表情で同僚を睨みつけ、同僚はその視線から逃げるように俯く。
無言の時が流れる中、二人を交互に見つめていた彼女がまた口火を切った。
「今日のお夕飯は、鍋焼きうどんです」