秋の月は日々戯れに
疑わしそうな視線のままに立ち上がった彼女は、言われた通りに拭くものを持って戻ってくる。
「本当に動揺したわけじゃないんですね?」
「だからそう言ってるじゃないですか。やめてくださいよその目」
やめろと言われてもしばらくはジト目で彼を見つめていた彼女だが、自分が投げかけた問いの答えを待つ同僚の視線に気がついて表情を改める。
「えっと、浮気とはどういう時にしようと思うか、でしたね。話が中断してしまってすみません。では、どうぞ」
「どうぞって……」
手で指し示しながらにっこり笑う彼女を、彼は困惑顔で見つめ返す。
彼女がどうぞなんて言うものだから、同僚まで居住まいを正して答えを待ちわびる体勢に入っている。
コーヒーの染みがついたちょっぴり間抜けなTシャツ姿で、彼は答えるべき言葉を探して視線を彷徨わせた。
浮気の経験なんてないのに、どんなときにしようと思うかと聞かれても……。
「彼女とは違う別の女の子と、遊びたくなった時……とか?」
「それはつまり、なんで遊びたくなるの?彼女と喧嘩したから?喧嘩してなかったとしたら、彼女に魅力を感じなくなったとか?そのへんもっと具体的に!」
「ぐ、具体的にって……言われても」