秋の月は日々戯れに
彼女が浮気をしたと騒いでいるのはただの勘違いであって、温かいやかんにも、健康的な受付嬢にも、浮気をした覚えなんてない。
そもそも、浮気がどうこうなどと騒げる立場に、彼女はいないはずなのだ。
だって彼女は、ただの幽霊だから――。
「なるほど……例えば、あたしにはない可愛らしさだとか、おしとやかさだとか、そういうものに惹かれたときに、浮気しちゃうと」
彼と彼女の会話で何かを納得してしまったらしい同僚は、俯いて悲しげにため息をつく。
「そっか……やっぱり、こんなに好きだったのはあたしの方だけか」
なんとなく、どこかで聞いたようなセリフだと思った。
でも、彼女が未だに何かを喚いているから、煩くてちっとも思い出すことができない。
悲しげな顔で、それでも笑って、同僚は何度か深く息を吸って吐いた。
「うん。きっとこれが、いい機会なんだ」
何かが、頭の隅に引っかかっている。
でも、どうにも思い出せない。
「だから、違うって言ってるでしょ!」
「逆ギレですか!そんなこと言うと、鍋焼きうどんに卵落としてあげませんからね」
「いいですよ。自分でやりますから」
「あなたは卵禁止です!」