秋の月は日々戯れに
今すぐ思い出さなければいけないような気がするのに、どうしても思い出せないのは、やっぱり彼女が煩いせい。
「その卵は、俺が買ってきたんです。落とすか落とさないかは、俺に決める権利があります」
「調理をするのはわたしです。つまり、落とすか落とさないかは、わたしに決める権利があります」
「調理って……土鍋に材料ぶち込んで煮るだけじゃないですか」
「それもまた立派な調理です!」
話の中心はすっかり浮気から夕飯の鍋焼きうどんに移っているが、二人は気がつく様子もなく言い合っている。
それでも彼の頭の片隅には、ずっと何かが引っかかっていた。
「ねえあっきー、そろそろご飯にしない?あたし、なんだかスッキリしたらお腹空いちゃった」
「ああ、それはすみません。では、ご飯にしましょう。すぐ用意します」
同僚には笑顔を向けて、彼には子供っぽくべーっと舌を出して、彼女はキッチンスペースに向かう。
やれやれと呆れたようにため息をついて、彼もあとを追うように立ち上がった。
「なんだかんだ言って、大好きだよね、あっきーのこと」
「お前、卵なしな」
「ええー、なにそれ横暴!」
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