秋の月は日々戯れに


「良かったんですか?一人で帰してしまって」

「本人がどうしても一人で帰りたいって言うんだから、しょうがないじゃないですか」


同僚が帰ったあとの部屋はどこか静かで、先ほどより幾分、自分の声が大きく聞こえる。


「結局あいつは、何しに来たんですか」

「夕飯を一緒に食べるためでは?」


コテっと不思議そうに首を傾げてみせる彼女に、本気で言っているのかと呆れ顔を返す。


「もしくは、お付き合いされている方の浮気について、あなたに相談するためですかね」


明らかにそちらが正解で、分かっていたのにあえて一度外してみせた彼女に、意地の悪さを感じずにはいられない。


「男性の気持ちは男性が一番よく分かるだろうということで、あなたに相談しにいらしたようですよ」


土鍋を洗っていた手を止めて、彼は隣に立つ彼女を見やる。


「女性に頼りにされるあなたというのは、わたし的に少しもやっとする部分もありますが、同時に誇らしくもあります」


彼女は、そう言って笑った。
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