秋の月は日々戯れに
「後輩が困っていたら手を差し伸べるよき先輩であり、同僚の悩みに耳を傾ける優しい人である。あなたのそういうところが、わたしは妻として誇らしいです」
褒められるのは悪い気はしないが、褒められすぎるとただ恥ずかしい。
だから、ふいっと彼女から視線を逸らして、彼は土鍋洗いを再開した。
「本当は、そろそろ結婚を考えていたんだそうです」
唐突に彼女が口にしたセリフは、彼が帰ってくるまでの間に、彼女と同僚の間で交わされた会話の一部分。
「相手の方も同じことを考えているような雰囲気があって、あとはもうどちらが先に切り出すか、そのタイミングを見計らっていた矢先に――」
相手の浮気が発覚した――あえて言葉にしなかったその部分も、彼にはしっかりと伝わった。
焼き鳥屋でのヤケクソ気味な飲み方も、鍋の時のスマートフォンを見つめる悲しげな顔も、全ての原因はそこにあった。
けれど、それが分かったからといって、彼にはどうすることもできない。
どうせどうにもならないなら、最初から関わりたくない。