秋の月は日々戯れに
「まあ……ランチですからね。ディナーならともかく。一緒にご飯に行くような異性の友達だって、そりゃあいるでしょうから」
「その二人は、傍からはとても親密な関係に見えるそうです。ただの友達には、とても見えないような」
その言い方はもう、明らかに例え話ではなかった。
「何の話をしてるんですか?」
それに気づいて問いかけると、彼女はにっこりと笑う。
「“例えば”の話ですよ」
「明らかに言い方が例えじゃなくなってますよ」
「それは失礼しました」と、彼女は笑って言った。
それから答えを催促するかと思われた彼女は、彼の予想に反して何も言わない。
もう満足したように、鼻歌混じりで彼が洗い終えた土鍋を拭いていく。
答えなんてもういらないような空気が漂い始めたので、彼はそこで思考を中断した。
「あとはお任せ下さい。あなたは座っていていいですよ」
最後の一つを水切りカゴに入れた彼に向かって、彼女が言う。
「寝る前ですから、何か飲みたければお茶をどうぞ」