秋の月は日々戯れに
取り皿を拭きながらの彼女のセリフにとりあえず頷いてみせるが、彼は冷蔵庫の前を素通りしてベッドに向かい、縁から足を垂らした状態で仰向けに転がった。
目の上に腕を置いて光を遮り、体中から力を抜くように、大きく息を吸って吐く。
「だいぶお疲れのようですね」
彼女の労うような声に「まあ、それなりに……」と力なく返す。
「もう寝たらいいのでは?それとも、何かやることでもあるんですか?」
やることはない、でも眠たくもない。
疲れているのは確かなのに、不思議と眠気はまだ遠かった。
彼女が食器を拭くときに立てる微かな音を聞きながら、目の上から腕をどかしてスマートフォンを手に取る。
何気なく液晶画面に光を灯すと、着信が一件入っていた。
それも、一時間ほど前に後輩から。
全然気付かなかったことに僅かに驚きながら、彼は電話をかけ直す。
三回目のコール音が鳴り止む前に、電話は繋がった。
そして繋がった瞬間
「…………お前、絶対に酔ってるだろ」
明らかに呂律の回っていない後輩の声が聞こえた。
そして後輩は、呂律が回っていない上に完全に涙混じりの声で言う。