秋の月は日々戯れに
フライパンもボウルも出しっぱなし、砂糖やら塩やらは作業台に溢れて混ざり合い、菜箸に至っては卵液がついたまま床に落ちている。
「な、何をどうしたらとは……」
不自然に逸らされた視線は、きょときょとと忙しなくあっちこっちを見回している。
キッチンを指差したまましばらく無言で睨みつけていたら、諦めたようにシュンっと俯いた彼女が、上目遣いに彼と視線を合わせた。
「お、お弁当を……その……作ったんです」
やはり犯人は彼女だった。
確信を得られたことで、更に問い詰めてやりたい事が色々と浮かんできたが、まずは根本的なところから攻める。
「でも今朝、この体じゃ味噌汁も作れないって言ってましたよね」
チラッと見れば、やっぱり彼女の足元は透けている。
実は幽霊だと思っていたのが勘違いだったのかとも思ったが、やはりそこは間違いないようだ。
「作れないです。わたしが触れられるのは、旦那様だけですから」
ご機嫌を伺うような視線を厳しく睨み返すと、また彼女がシュンっと俯く。