秋の月は日々戯れに
一方的にまくし立てながら歩き出す。
中々返事が聞こえないことを訝しく思っていると、しばらく経ってようやく
「……家に帰る気力がない。そんなわけで今、先輩のところにいる。家に行ってもいいけど、鍵空いてないぞ」
全く力のこもっていない声が聞こえた。
聞こえてきたその言葉に、受付嬢はピタッと足を止める。
「それじゃあ、行っても意味がないじゃない」
「……そうだな、意味ないな」
「今から家に帰る気力は?」
「んー……ない」
全く覇気もやる気もない返事に、後ろから何やら怒っているような呆れているような声が聞こえてくる。
それにもまた気の抜けた返事を繰り返している声を聞きながら、受付嬢はしばらく考え込むように口を閉じる。
そして、何かを思いついたように電話の相手にチェンジを要請した。
「代われって……誰とだよ」
「今そこにいる、あなたの先輩さんに決まっているでしょ!」
しばらくすると電話の向こうから「代われって言われました」「……なんでだよ」というやりとりが聞こえてくる。
僅かな沈黙を挟んで「もしもし……?」と困惑気味な声が聞こえた。