秋の月は日々戯れに


「こんにちは。奥様お元気ですか?突然で申し訳ないのですが、今からお宅に伺わせてください!」

「……え?あっ……なに?」


困惑しきったその返事は予想通りのものだったので、受付嬢は構わず続ける。

先程までの二人のやり取りを聞いて、必勝の作戦はすでに立ててあった。


「先輩さんの家にお邪魔しているお邪魔虫、私が引き取ります!」


困惑ばかりだった空気が、そのセリフで風向きを変える。

しばらく悩むような間があったあと、聞こえてきたのは「今、どこにいるんだ?」という声。

自分の作戦が功を奏した瞬間に、受付嬢は密かに笑みを零した。

けれど、笑っている場合ではないことに思い至って、すぐに表情を引き締める。


「私、今駅の近くにいるんです。先輩さんの最寄り駅、もしくは最寄りのバス停を教えてください。そこまで行くので、良かったら先輩さんもそこまで迎えに来てください!」


「分かった」と答える声のあとに、駅ではなくバス停の名前が告げられる。

通話を終えてすぐにスマートフォンで時刻表を調べると、すぐさま駅の裏にあるバスターミナルに向けて駆け出す。

目的のバスは、三十分後に出発予定となっていた。






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