秋の月は日々戯れに
もちろん聞こえていたけれどサラッと無視して、彼は歩き続ける。
ただでさえ家に居座っている後輩のせいで疲れているというのに、この上彼女の相手なんてしていられない。
黙々とコンビニの前を通り過ぎて、今回は受付嬢もいるので公園の中は通らず外側をぐるっと回り、辿り着いた二階建てアパートの階段を上がる。
「お邪魔します」
「どうぞ、どうぞ」
ドアを開けてズンズン中に入っていく彼の代わりに、絡めていた腕を離した彼女が、受付嬢を中へと誘う。
「客が来るから片付けておけって言っただろ!」
「……だって、そんなこと言ったってせんぱい」
「“だって”も“そんなこと言ったって”もあるか!いいから起きろ、そして片付けろ!」
廊下を進んだ先にもう一つドアがあって、その向こうから怒れる彼の声と、それに答える全く力の入っていない後輩の声が聞こえる。
「ずっとあの調子なんですよ。彼、まるでお母さんみたいですよね」
そう言って、彼女はどこか嬉しそうに笑う。