秋の月は日々戯れに
なんで嬉しそうなんだろう――と僅かに疑問を抱いた受付嬢だったが、ドアを開けて部屋に入った瞬間、そんな疑問は頭からすっ飛んでいく。
「うわ……これは、怒りたくもなりますね」
本来ならばテーブルが置かれている場所には布団が敷かれていて、その周りには酒に分類される様々なアルコール飲料の空き缶が置かれている。
散らばっているのではなく、綺麗に大きさ順に並んでいる缶に「そんな元気があるなら片付けろ!」と彼が怒っている。
敷きっぱなしの布団は、真ん中に掛布を被った塊があって、彼はそこに向かって怒鳴りつけていた。
「わざわざお前を引き取りに来てくれたんだぞ!とにかく一旦布団から出て来い」
「ひきとりー?頼んだ覚えはないので、むしろお引き取りくださいと伝えてください」
「上手いこと言ってる場合か!!いいから出て来い」
グイグイ掛布を引っ張る彼の力に対抗するように、後輩も布団の中から掛布を引っ張る。
拮抗する力に、掛布は一向にその場から動かない。
「いい加減にしろっ!」
「いやっす。オレ、残りの人生をこの布団に捧げます」
「自分の家の布団に捧げろ!!」