秋の月は日々戯れに
「あなたに、気に入ってもらえるように考えた名前なんですよ。言ってみれば、あなたの為にこの名前を選んだと言っても過言ではありません」
そう言って胸を張る彼女からは、まるで悲壮感が感じられない。
初めからずっと、分かっていた。
彼女は、自分が幽霊であるということを、微塵も悲観していない。
「あなたを選んだのは、言ってみれば直感です。ほら、よく言うじゃないですか!運命の人に出会えたとき、ビビビっと電流が走ったような感じがするって。”この人だ!”って、直感で分かるって」
彼女がピッタリとくっついている方の腕から、段々と感覚がなくなっていく。
でもいつものように、冷たいから離れろとは、なぜか言えなかった。
そんな彼の胸中など知る訳もなく、彼女は笑顔で続ける。
「わたしには、それがあなただったんです」
そう言って、彼女はどこか恥ずかしそうに笑った。
それから彼女は徐ろに立ち上がると、キッチンスペースに向かっていく。
彼女が離れていった途端、片腕にもエアコンの熱が当たって、じんわりと温かくなってくる。