秋の月は日々戯れに

上目遣いの視線を無視して手を動かすも、彼女も粘り強く隣に立ち続ける。

いい加減耐えられなくなったところでため息を付けば、今度は「お味はいかがでしたか?」と問いかけられた。


「微妙としか言い様のない微妙な弁当でしたね。でもそれよりなにより、”いつも夫がお世話になってます”って言ったらしいじゃないですか。おかげで俺はいつの間にか既婚者です。どうしてくれるんですか」


何が悪いのか分からないとでも言いたげな顔で、彼女が首を傾げる。


「夫の勤め先を訪ねた妻としては、正しいセリフだと思いますけど」


その場合には確かに正しいだろう、けれど根本的に


「俺達は、夫婦じゃないでしょ!」


ハッと息を吸う音がして、突然彼女がよろよろと後ずさる。


「な、なんてことを……。わたしが片付けられない女だからですか。それでは、妻として恥ずかしいからそんなことを言うんですか!」


さっきと言っている事が違う、やっぱり片付けられないんじゃないかと思ったが、一番大事なところはそこではない。
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