秋の月は日々戯れに
「今からプレゼントを用意するのも大変でしょうから、ひとまず今日は奥様のお好きなお花を買って帰るのはどうですか?それだけで特別感が出て、何も無いよりはいいかと思いますよ」
しきりに頷いていた男性は「ケーキと、ワインかシャンパンに、花……」とブツブツ呟いてから、一つ力強く頷いて顔を上げた。
「ありがとう!愛美ちゃんのおかげで、妻を怒らせずに済みそうだよ。本当に、ありがとう」
「お役に立ててなによりです」
晴れやかな笑顔で去って行く男性を、受付嬢はぺこりと頭を下げて見送る。
会社の顔であり、男性社員の密かなる癒しでもある受付嬢は、割りと頻繁に、こうして悩める男性社員達の相談にのることがあった。
役職も部署も関係なく、朝からひっきりなしに男性社員が受付嬢の元を訪れる。
そこにたまに女性社員も混じったりして、完全にお悩み相談窓口と化している受付を、今日も朝から忙しそうだな――と彼はぼんやり眺める。
持ち前の愛嬌で、男性社員のみならず女性社員にもウケがいい受付嬢は、出社してきた社員全員にもれなく笑顔で挨拶を繰り返す。