秋の月は日々戯れに
「あなた幽霊じゃないですか!」
思わず声を荒らげてしまったら、彼女は大きく目を見開いてひどくショックを受けた顔をしたあと、よろよろペタリと床に崩れ落ちて俯いた。
普通の女の人ならここで涙を流すのかもしれないが、いかんせん彼女は幽霊だ、涙なんか一滴も出やしない。
「ゆ……幽霊だと結婚できないなんて法律はないはずです!」
「なら、幽霊でもいいから結婚したいと思っている人としてください」
震える声で必死に抗議する彼女に冷たく言い返してやると、一瞬持ち上がっていた顔がまた俯いた。
華奢な青白い肩がふるふる震える様子はやっぱり泣いているように見えるが、彼女は泣けない、幽霊だから。
「それでも……」
ぽそっと呟かれた声は床に向かっていたから、彼の耳には届かない。
俯いたままの自分を放って、片付けを再開した背中を見上げ「それでもわたしは……」ともう一度呟く。
今度は聞こえていたのか、訝しげな顔で彼が振り返る。
その腰に、彼女は勢いよく飛びついた。